歯が欠ける
正月休み最後の夜をenjoyすべく、ポランスキーの「反撥」でぶっ壊れるカトリーヌ・ドヌーヴを見ながら、大量買いした油っぽいブルーベリーマフィンを食べていた時、ゴリゴリという鈍い音がして、右下の奥歯が砕け散った。
予兆はあった。昨年の暮れに、肉を食べていたら何か硬いものが舌にあたり、吐き出したら骨の破片のようだったので、そのまま捨てた。
今考えてみるとホットドッグに骨はない。あれも歯の破片だったようである。
こっちのマフィンはラードで作るらしく(多分安いから)、若干の獣臭さが鼻に付くなーと思いながら食べていたので、
「お、ラード臭いとは思ったけど豚骨が」と思ったが
(本当にこの1年程、こうした明らかな間違いに、瞬間的に脳が犯されることが何度もあった)
いやいや、と我にかえった。
さすがにマフィンで歯が割れるとは思っていなかったので、焦ってスーパーにリステリンやら強力な歯磨き粉を買いに走った。
たしかにここ数年、歯にとってロクなことがないような生活を送ってきたのは確かである。
つまり
・寝落ち
・間食
・甘いもの(主にコーラ)を常に飲み続ける(「美味しいジュースはすぐに飲みきりなさい」と地元の友人Mが医者に言われたというのを思い出す。意味不明なようで全く的を得た意見である。)
という生活が続いていた。良いわけがない。
私は少なくとも永久歯が生え揃ってからというもの、一度も歯を悪くしたことがなかった。歯科などここ10年は確実に行っていなかった。おまけに歯並びが良いと医者に言われるほど綺麗な歯で、例えば八重歯や乱杭歯の人の口の中が想像ができない。
だが、この奥歯というのが曲者で、やはりエナメルコートをして凸凹を埋めておけばよかった...と今更になって思うのだが、歯の上面のクレバス状の部分に菌が繁殖し、内部に至って空洞化していたらしいのである(舌で触った感じの予測だが多分間違っていない)それが素焼きの壷か何かが割れるようにパックリいったというわけだ。
話は変わるが、私は書き出しが「(セリフ)」で始まる文章が嫌いで仕方がない。背筋がゾワゾワする。
これは、小学校4年生くらいのガキの
「ちょっと知恵もついてきたし、いい作文書いてやっか」
という悪意なき厭らしさ、最も簡単な大人びる青くっさーいテクだからに他ならない。ただ、読み手を引き込む方法としては非常に効果的だ。多分電通や博報堂や角川書店などを受ける時の小論文系のESで求められるテクだ。
逆に言えば、書き出しを「(セリフ)」で始める奴の「ねえ、私の文章読んで(キラキラ)」という「人を惹きつけたい」「私の文章を読ませたい(自信がある)」「本当に書くのうまいよね」と言わせたい。いい評価で自分の周囲を固めたい。という下世話な感じが本当に無理。
そういう訳で、絶対に自分は何かを書くときには、「(セリフ)」で始めるような怪しげな真似はしないようにしている。
さて、歯が欠けてみると、ウーンなかなかこれは取り返しがつかないことになってしまったぞ...と思う。
つまり、うっかりこの後80近くまで生きてしまったとして、俺はこの臼歯が欠損した口腔でもって55年近く飯を食うのか?ということであり、あるいは「親にもらったこの体...」という雑な申し訳なさを感じないでもない。
逆に、最近では治療で消せるらしいとはいえ、刺青を入れたりピアスを入れたり自らの意思で抜歯してみたりする人の「永劫」へのカジュアルな付き合いに驚嘆せずにはおれない。
以前、生まれたばかりの赤ちゃんの口腔内には虫歯の元になる菌が生息しておらず、親によるキスや「ご飯をふーふーする」ことによる唾液の飛沫によって虫歯菌が"入植"するという話を聞いた。
それで、「発言小町」などを見ていると、「トメ(姑)が子供にやたらとキスをしたがる」とかいうスレが立つ。この真偽やいかに。ともかく、子供ができたら確実に私は誰にも口付けさせないであろう。
しかしまあ、思うに男の口腔内というのは極力清潔にしてもらいたい。